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木刀を握る男の手を、優しく包み込む。
「なっ!?離せっ!!」
男の瞳に宿る憎悪の影が一瞬薄れ揺れる。
その瞬間、今しかないと我の中の何かが叫んだ。そして─
「恨みからは何も生まれない。だから毛利が何をしたかは知らぬが、代わりに謝る。すまなかった…。」
正直、毛利を許してくれるとは思えない。突き放されるであろうことも分かっている。それでも信じたい、この思いは伝わると…
我は精一杯の笑顔を浮かべる。男の動揺が強くなるのを感じた。
「私、は……」
「ほんとに変わったみてぇだな?同じなのは顔だけか。」
男が何か話しかけた時、眼帯をした男が現れた。いや、その男だけじゃない。派手な姿をした男達がそこにはいた。
「…体育の授業終わったみたいだね。毛利サン、この人達が俺様の友達。」
「猿飛の…友。」
「そう。見るからに怖そうな顔してる人もいるけど、ああいう顔だから。」
申し訳無さげに猿飛の顔が歪む。この者達も“毛利”を恨んでいるのか…
我はゆっくりと男達に向き合う。
「今日からこの学校に来た、毛利元就だ。」
緊張しているのか声が震える。何を言おう、何を言えばいい?
男達を見れば、品定めをするかのような視線を向けられている。
「……どうか仲良くしてほしい。」
さっきまでの勢いはどうした?
己の情けなさに腹がたつ。
沈黙の中、冷たい時間だけが流れた。
「皆、どうして何も言わないんだ? 友達になりたいと言っているんだぞ?」
凍りついた空気を破ったのは、短髪の優しげな顔をした男だった。
我の元へ歩みよると、手を差し出してくる。
「ワシは徳川家康、家康と呼んでくれ。ワシも友達になりたい!…皆、お前によく似た者と良い思い出がないのだ。だがお前はお前であろう?」
「……家康。」
まるで太陽だった。
こんな温かい人間がいるのだと、初めて知った。
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