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――――――放課後
猿飛は部活があるからと運動場へ向かった。他の生徒達も各々帰路についている。
さて、我はどうするか...
ふと窓の外を見れば、長宗我部先生が野球をしていた。楽しそうな笑顔と微かに聞こえる笑い声に、我もつられて笑んでしまう。
『……り、もうり…毛利ぃぃぃい!!!』
不意に朝の出来事が甦る。
こんなに明るく笑う長宗我部先生があんなに恨む"毛利"は何者なのだろう...
―――――チクリ...
胸の奥が傷む。
どうしようもないくらいに泣きたくなった。
本当は今日みたいなことは初めてではない。知らぬ者に恨まれ、記憶の奥底では怨みや悲しみを訴える声が聞こえた。
「我は一体何者なのだ?」
答えは返ってこない。
代わりに頬を涙が濡らしていく。
「泣いてる..のか?」
「っ?!..長宗我部先生」
振り向くと長宗我部先生がいた。つい先程まで運動場でいたはずなのに..。
「泣いてるように見えたから、走ってきた。泣いてる生徒は放っておけないだろ?」
我の聞きたいことが分かったのか、先生はそう言った。
"泣いてる"という単語に、我は慌てて頬を袖で擦る。
「泣いてなどおらぬ。埃が入っただけぞ。」
まるで泣いてましたと認めるような言い訳しか出てこなかった。
しかし先生は深く尋ねてこようとはせず、悲しげに眉を寄せただけだった。
「そうやって我慢してたのか?自分を偽って隠してきたのか?誰にも弱味を見せずに...」
「先生?何て言ったんですか?上手く聞き取れなくて――」
――ぎゅっ...
まるで吸い込まれるように、我は先生の腕の中にいた。暖かくて力強い抱擁に、我の思考は止まる。
「約束しろ。悲しいこととか苦しいことは隠すな。言いやすい奴にでいいから、ちゃんと相談しろ。」
「先生...?」
体をゆっくりと離され、大きな手が我の頬を撫でる。躊躇いながらも優しいその手に、再び涙が溢れた。
「はい..」
ようやく絞り出せた返事に、先生は嬉しそうに笑った。
「よし!それじゃあ暗くなる前に帰りなさい。明日も元気にこいよ?」
我を心配してくれた優しさに嬉しくて、我もにっと笑って頷く。
今日は本当に色んなことがあったけど、先生の優しさで全てがリセットされた気がした。ありがとう、先生..
これ以上泣き顔を見られないためにも、我は先生に手をふりながら教室を後にした。
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