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「ほら、これ飲め」
頬に当てられたのは気持ちいい位に冷えたスポーツドリンクだった。
「他はどこを見に行くつもりだったんだ?」
隣に座った長宗我部先生はうちわをパタパタと扇ぎながら、練習を続ける部員達を見つめる。
「陸上と弓道部、あとは吹奏楽です」
手渡されたスポーツドリンクは、体に染み渡っていく。そして先生の優しさが嬉しくて、目眩はもうどこかに飛んでいってしまう。そんな簡単な自分が少し恥ずかしくて、でも嫌いじゃない。
「吹奏楽か、スポーツにこだわる理由ないんだろ?吹奏楽なら大会についても行けるし、そっちがいいんじゃないか?」
「それはそうなんですが...せっかくだし、皆と一緒に部活をしたくて。」
「無理してすることはないだろ」
―チクリ...
先生は我のことを思って言ってくれてる。それは分かってる。それでもどこか突き放したような言葉に胸の奥がチクリと痛んだ。
「飲み物もってきましたー!」
そんな時サッカー部のマネージャーらしき女子が籠に沢山のペットボトルを持って走ってくる。
真田を含めサッカー部の部員達は嬉しそうに駆け寄っていった。
「そろそろこっちも休憩だな。一旦休めー!!」
そう言うと先生は側に置いてあった籠を持ち上げた。その中にはタオルやペットボトルが沢山入っている。
「...野球部は、マネージャーはいないのか?」
思わず口をついてでた疑問に、先生は苦笑する。
「野球部の面々はむさ苦しいだろ?見た目も怖いってマネージャー希望出ないんだ。だから俺が顧問兼マネージャー」
確かに部員達はヤンキーっぽい見た目の者が多い。しかしそれだけで決めつけるのはどうだろうか。
そして何より顧問もしながらマネージャーの仕事までしている先生...
この瞬間、我がしたいことが決まる。
「先生、部活動どこに入るか決めました。」
「え、決まったのか?」
「野球部のマネージャーです。」
目を見開く長宗我部先生。
こんな理由で決めるのはどうかと思うが、先生の力になりたいと思った。
「本気か?マネージャーも、楽な仕事じゃねーぞ?」
「それでもしたいです。」
にこりと笑って見せれば、先生の目はさらに見開く。でもすぐに優しい笑顔へと変わる。
「そうか、なら反対はしない。」
くしゃり、大きな手が我の頭を撫でる。
ただそれだけなのに涙が出そうになった。
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