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─────
「桜好き…なの?」
ふと猿飛がぼそりと呟く。聞き逃してしまいそうな質問に、我は少しだけ考えてから答えた。
「好きだが…桜が嫌いな者などいるのか?」
「いや…その嫌いな人にあんたが当てはまるんじゃないかと思って。」
我が桜嫌い?
「毛利サンは…どうして桜好きなの?」
予想外の言葉に思わず固まっていたが、慌てて意識を質問へと向ける。
どうして桜が好き、か…
何故そのようなことを訊かれるのか、見当もつかない。そもそも日本人の桜好きに理由が必要なのだろうか…
「理由はない。………言うとすれば“懐かしい”だろうか。」
「懐かしい?」
「ずっと遠い昔、誰か大切な人と見たような気がするのだ。とても愛しい…大切な人と。」
────パキッ
不意に後ろで小枝が折れる音がして慌てて振り返った。
左目を包帯で隠した体格のいい男がじっと我を見つめている。
「西海の鬼…」
この男が…?
猿飛の呟いた言葉で猿飛とこの男が知り合いだとわかった。
しかしゆっくりと男の瞳は、憎しみの色に染まっていく…
「……り、もうり…毛利ぃぃぃい!!!」
───ブワッ!!
男の手に握られていたバットが真っ直ぐに我を狙う。目を閉じることすら忘れた我を、間一髪で猿飛が助けてくれた。
「西海の鬼!!ちょい待って!!」
猿飛の必死の呼び掛けにも男は反応しない。我を庇う猿飛にも焦りの色が見える。
仕方ない、か。
「猿飛、下がれ。」
どうやらこの男は我を狙っているらしい。理由は知らぬが、それなら猿飛は巻き添えということになる。
今度は逆に猿飛を後ろへと引っ張ると、一瞬の隙を見て男との間合いをつめた。
「───っ!!?」
そのまま手に持っていた鞄を男の腹に思い切り叩きつける。
「隙があるぞ、鬼よ。」
さらに腹部を押さえ、痛みに耐える男の足を引っかける。
「毛利…てめぇ…」
「我は確かに毛利だが、貴様のこと等知らぬ。人違いぞ。…ったく、猿に続いて鬼とは、我は桃太郎にでもなったのだろうか。」
我は愚痴を溢す。こんなにも人違いをされるとは、“毛利”には文句を言わねばな。
「は?…お前、何言って─」
「毛利サンは、俺様達の知ってる“毛利元就”とは違うんだ。」
猿飛の言葉に、男は目を真ん丸にして我を見つめていた。
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