非日常、『私も抱いて欲しいと要求します。無論性的な意味で』

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日も暮れて夜にもなれば動きやすくなります。鬱陶しい警察だかという人間組織の目は一層光りますが、電灯という人工光で街は照らされてはいても、隠れる事や紛れる事に関して夜の方が都合が良いのです。 そう、それが狐耳を生やす青年であるならば尚更、フードで頭を隠せば人通りにだって紛れ込めるのです。人目や周りを気にする昼とは違い、格好とかに拘らず自分の事しか考えられない時間帯は、狐男たる人外の彼はよく知っていました。 そんな彼の名は、ありません。生まれた時から捨てられた彼に人語の知識は与えられていても、呼び名なんてものは無かったのです。勝手にギンジと名乗っていますが、確かこれは最初に殺した人間の名前だったけと当人は思ったりしてます。 そんな彼はならず者でした。街を転々とさ迷いながら腹が減れば食らい、犯したくなったら女を襲う事にあけくれた毎日です。食欲と性欲、そして眠欲といった3大欲求に素直に従う獣です。 知性は人並みにはあるものの、良識は畜生にも劣ります。自分の横を通りすがる人間は全て美味そうかどうか、犯したいか否かの判断しかありません。 人目に付かぬ所で対象をさらい、後はゆっくり愉しむだけ。寝床なんて眠れたらどこでも良いし、食い散らかした跡は人間共が勝手に片付けてくれる。そんなサイクルを繰り返すだけの飢えた獣は、今夜も欲を満たしたいが為に牙を向ける事でしょう。 この街、楽園(パラダイス)と伝えられている粗津市で。 今はまだ人混みの中に潜みながら獲物を選定している狐男を、ただただ監視する者がいました。 その者は聖職者の格好をしており、俗に言うならば頭に羽織る頭巾を取ったシスターです。でも、聖職者と言う割りには服は乱雑に扱われており、いわゆるダメージ系ファッションになり下がっております。 黒のショートヘアーで肉付きの良いシスターのお姉様は、ひっそりとターゲットである狐男を見ています。後方、遥か2キロメートルのビルの上から、肉眼だけで具(つぶさ)に監視しているのです。 そんな並外れた視力を持つ彼女は、とてつもない戦闘力も有しているのです。本来ならばあの狐男をすぐさまとっ捕まえ、剥製にするくらい訳もないのですが、 「手が出せないのってこんなにもイライラするものなのね」 凛とした声でボヤいた不満。 組織内の決定に刃向かえない立場だから、歯痒くてもぐっと堪えていました。
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