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街を散策していた狐男ですが、街が揺れたかもしれない錯覚を一瞬抱いてから、どうもこの街はおかしいという事に気が付きました。
小腹が空いたから適当な可愛い女に目星を付け、人気の無い場所まで尾行していたというのにです。ターゲットがいきなり居なくなるわ、匂いですら追えなくなる事態に陥りました。
まぁそんなのは狐男にとって時折ある事なので良いのですが、一番のおかしな問題は、
「オイオイ、どー言う事だよ。さっきから人っ子一人いやがらねえじゃんか」
あれだけ大量の人間が行き来していたと言うのに、今では大通りでさえ誰の姿も見当たりません。深夜でも無いのに車も通らない無人街であるのだから、直ぐ異変に気が付いたのです。
前の狩り場もその前の狩り場も、獲物を吟味して人気の無い所まで行き味わうこそ苦労しましたが、そもそも獲物が居ないという苦労はしてきませんでした。
何がどうなってやがると思いながら、街を徘徊して女の姿を探しました。楽園に来て獲物にありつけないなどとそんな事あってたまるかよ、という焦りが狐男の足をいささか早めたのでしょうね。
息を切らしながら幾らか角を曲がった先のとあるビルの前、花壇に座る少女の後ろ姿を発見したのである。緑色のポニーテールをしていて服はなんかダサかったが、空かせた小腹にはあんな中の中くらいの女が合う。
「なぁどうした嬢ちゃん。こんな無人街の中誰かと待ち合わせか?」
背後から近寄りながら声を掛けた。掛けない方が襲いやすいのだがこの男、自分が人間より格上の幻想種だから余裕をこいているのだ。
こんな無人街ならどこで捕まえようが関係ないし、逃げ惑う女を捕まえて犯す快感は最高だしな。と考えているのだから、本当油断しまくりなのです。
声を掛けられた女の子はカラカラと、まるで獲物が引っ掛かったと言わんばかりに笑いながら、
「あっはは~、こんな私にご指名なんどっと有り難い事この上ないんすがねぇ」
「なっ……」
クルリと向き直った少女を見て、花壇に腰掛けて隠れていた異常さを狐男は目の当たりにしたのだ。
「下半身魚なんすが、こんな私でよければ――――お前をボッコボコにしてやんよ」
人魚である希は尾ヒレを足代わりにして立ち上がり、拳を合わせ敵を見据えた。距離にして8メートルは離れた先に居る、驚愕していた狐男をだ。
最初は驚きの余り声を失っいたが、ふと狐男は笑う。
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