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「陸に上がった魚が何が出来るかって? ――――まぁ普通は窒息死が関の山っすがね」
希は足代わりにしていた尾ヒレを上手く使い、地面を蹴ってその場から大きくバックステップをしたのです。
当然、狐男の爪は空振りました。それが気に食わなかったのか振るわなかった手で狐火を使い。
「ち、焼け死ねぇ!」
犯すとか泣き喚きつかせるとか度外視し、気に食わない奴だから焼き殺す方にと変更したのです。
元々中の中くらいの女なんてごまんと居やがるから、あんなの1人焼き殺した所でどうって事ねぇな。というのが狐男の本音です。
放たれた火の大きさたるや、一軒家の一棟くらいは覆えるような火球でした。大通りをいっぱいに広がる炎は止めてあった車や街頭を巻き添えに、希へ向かって襲い掛かります。
バックステップの着地地点に着弾した火球は5階建てのビルの屋上にまで届きそうな火柱を上げ、辺りの物を焼き焦がしていきます。
勝った。と、ニヤリと笑う狐男でした。が、
「いやいや、マジシャン通り越して魔法使いの域じゃないっすかぁ。こんなん出来るとか初耳っぬ」
焼き殺したであろう奴の、阿呆な声が耳に届いたのです。
聞こえた方向はなんと後方からです。いつの間に俺の横をすり抜けやがったと歯噛みしながら、狐男は即座に振り向いて、
「なっ……」
絶句、したのです。
「おりょりょ、何驚いちゃってんのー。あ、やっぱりアレなんすか、人魚が宙に浮かんでたら開いた口も塞がらないって感じっす?」
そうやってけたけた笑う希はなんと、自分の下半身に腰掛けながら満月をバックにして空中に浮かんでやがったのです。
「どっちがマジシャンだっつーの……」なんて突っ込みは虚しく街へ響きました。そして「お前、本当に人魚なのか?」という狐男の疑問に対し、
「私人魚っす、あと、高校生やってるっす。
まぁ信じられないのも分かりんすから、あっけらかんとしてるアンタに敵がよくやる王道パターンの正体バラシでもやりんす~」
余裕綽々と笑いながら、まるで小馬鹿にされている気分だと胸くそ悪くなる狐男ではあったが。
空に浮かぶアレの正体が分かるならば、今は直ぐにでも爆発してしまいそうな怒りを抑え我慢してやろう。と狐男は決めた。
そして今更ながら思う狐男が思ったのは、あの人魚の下半身が魚っぽくない事であった。
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