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終始、会話の中心は諏訪だった。福留もよく話したが、無理に盛り上げようとしてそのペースに付いていけなくなってしまう話し方ではなく、むしろ落ち着いた中で話が盛り上がればそれに合わせるという大人で淑やかな風だった。おかげで俺も普段に比べると初対面や面倒だという壁を感じずに話すことができ、最初は気まずそうだった諏訪もだんだんと自然になった。
「なんでか川勝の部屋のが落ち着くんだよな」
「迷惑」
「ははっ。川勝くん本当に迷惑そう」
「迷惑じゃないだろ!?今朝だって俺が買ったパン食べてたくせに!」
「なんだよ、起きてたのかよ」
「わかるんだって俺には」
諏訪の横で福留は笑う。こういう風に俺も自然に笑えたらと羨ましく思った。笑うことが特別苦手ということはない。ただ、優しく柔らかく笑うことは少なかった。意識的にそうしているつもりはないが、冷めた感情のほうが楽、というのはあった。
「ちょっと俺トイレ行ってくる」
昼食を食べ終え、話の盛り上がりも落ち着いた頃、グラスの水を飲み干して諏訪が立ち上がる。この食堂はなぜか中にトイレがなく、一度外に出て左にすぐのところに食堂に寄り添うように設置されている。そこへ向かうべく入り口から出る諏訪の背中を何の気なしに眺めた。
「二人って本当に仲が良いんだね」
すると、福留がそう言ったので視線を向ける。
「どうだろ?」
「仲良いよー。うちの学科のメンバーで話してるときと全然違うもん、諏訪くん。新たな一面を見たって感じ」
「なにそれ」
小さく笑って見せる。福留は眉を下げて、声のトーンも少し落とした。
「諏訪くんって人気者なんだよ。男子からも、女子からも。川勝くんはそういうの興味なさそうだけど」
また柔らかく笑う。嫌味を言っているのではなく本当に面白いようだ。
「みんな諏訪くんのこと慕ってるというか、まぁとにかく好かれてて、女子はそれでいろいろあるんだ」
再び眉が下がる。なんとなく言いたいことはわかった。
「福留さんは、諏訪のこと」
そこまで言ったが、その後は言葉にならない。けれど大体察したのだろう。
「うちは、どうだろう。正直、面倒臭いんだよね。だから今は見物人」
との答えが返って来た。今は、というのが変に耳に引っ掛かる。
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