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「でも」
と、福留は開き直るように眉を上げた。
「川勝くんと話す諏訪くん見て、なんか無意味だなぁって思った」
それはすっきりしたような顔にも見えるし、寂しくも見える。
「本当、全然違うんだもん。なんていうんだろう、諏訪くんの表情とか言葉の調子とか。上辺だけで人と付き合うような人じゃないから、うちらと上辺で一緒にいるわけじゃないにしても、川勝くんには、心を許してるんだなぁって」
相槌も忘れていた。嬉しいと思う気持ちが大きいが、それと同時に福留はよく諏訪のことを見ている、という複雑な気持ちも混ざっている。
「川勝くんが大好きなんだなぁって思ったよ」
「え?」
思わず少し身を引いた。
「引かない引かない」
そう言いながらふわっと笑って右手をパタパタと上下に振る。そのとき入り口から諏訪が戻って来て、「今トイレでミケに会ったよ!」と、知らない誰かの話を福留に振った。
諏訪は午後から授業がある為、先に一人でアパートに戻る。締め切っていた部屋には太陽が与えた熱気がこもっていた。ベランダの窓と玄関の扉を開けて空気の通り道を作る。それでもすぐには熱気は抜けない。大学からアパートまで歩いて来たので長い距離ではないが正午を過ぎたばかりだったこともあってだいぶ汗ばんでいる。そこでシャワーを一浴びすることにした。
少し冷たく温度を設定して汗を流すと、心の疲れも一緒に落ちるようだった。そして落ち着くと、あることを思い出す。諏訪に会う前に届いたメールだ。
浴室を出ると熱気は引いていた。身体の温度も下がっている。ざっとタオルで水滴を拭い、適当に服を着る。テーブルに置いた携帯電話を広い上げ、開いた。それからもう一度読み直そうとベッドに身を投げる。メールの送り主は、本原遼。高校時代に付き合っていた元彼だ。
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