63人が本棚に入れています
本棚に追加
目覚めるとそこには見慣れた風景。しかし部屋の主は不在。
「いないのかよ」
大きくため息をつく。ぼーっとする。やる気が起きない。今日川勝って授業何限だったっけ?自分の時間割より先にそちらを考える。寝起きの頭では少々時間が掛かる。そもそも今日って何曜日?
俺の朝は大概二パターンに分けられる。テンションが上がるときと上がらないとき即ち川勝がいるときといないとき。今日は後者だ。
「んーーー」
重い頭がだんだんと下がり、起こした身体をゆっくりと倒した。いま何時?テレビの横に置いてある置き時計式の振り子時計。川勝はこれがお気に入りだ。首だけを回して目を細める。十時前か。
「んーーー」
ひとまず再び身体を起こす。重たい瞼を持ち上げて部屋を見渡すと、机の上に俺が買った食パンが置いてあった。食べたんだな。無意識に口角が緩んだ。
初めて川勝に会ったのはこのアパートに引っ越してきたとき。偶然にも同じ日に同い年のしかも同じ大学の学生さんが来るってこりゃあ何かの縁だと思い、早速その日に声を掛けた。
「蕎麦あるんで一緒に食わないっすか?ほら、引っ越し祝い?」
「俺も蕎麦あるんでいいです」
断られた!?そこって断るところですか!?表情もさほど変えずにさらっと言いのける俺にとっての常識はずれにまずびっくり。しかしそこで引き下がるのはどうも気に食わない。
「蕎麦あるんだ!じゃあ尚更一緒にどう?」
これでどうだ、断れんだろう。訳もなく闘争心に近い感情が生まれていた俺は心の中で胸を張る。
「別にいいですけど」
…思いの外あっさりだな。まぁいいか。一人で軽い葛藤をする。
「どうぞ」
そして今度は川勝が扉を開き招いた。
最初のコメントを投稿しよう!