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「え?」
不意の受け入れ態勢に思わず戸惑う。少しの間のあと、川勝は素っ気なく聞いた。
「入らないんですか?あ、俺が行けばいいですか?」
「いや!入ります!蕎麦!持って来ちゃってるし!」
「ですよね」
慌てる俺に少し笑う。
「お邪魔します!」
その時の川勝の微かな笑みにどこか安心した。それからというもの、俺は飯を買いに行くのが面倒だとか、話し相手が欲しいだとか、事ある毎に川勝を訪ねた。決して愛想が良いわけではないから分かりづらかったが、それでも明らかに俺に対する拒否の意思は感じられなかった。気付けば川勝の家にいる自分が当たり前になっていた。
さくっと支度を済ませて川勝にメールを打つ。どうやら授業は終わりに差し掛かっているようで、すぐに俺は自転車を走らせた。
昼休みも川勝と一緒だ。学部が違うために、本来ならば別々の学生食堂で昼食を摂るのだろうが、どうも俺は川勝がお気に入りらしい。同じ学科の友人と過ごすより、なんというか、自然なのだ。加えて川勝は大学に友人がいないとのことで、遠慮なくご一緒させてもらっている。
「諏訪くん!」
大学内の食堂近くの駐輪場で自転車に鍵を掛けているとどこからか名前を呼ばれた。
「おー、嘉代(かよ)さんじゃん」
「なに、『さん』って」
笑いながらツッコむ女の子、嘉代。俺と同じ学科の子だ。よく笑う明るい性格で男女ともに嘉代と名前で呼ばれ親しまれている。
「なんとなく。なんでこっちにいんの?」
わざわざ別の学部の食堂に来るなんぞ俺ぐらいのもん、と自負していたのだが。
「うちはちょっとサークルの先輩のところに用事があって。諏訪くんは?」
「俺は今からここの人と昼飯食うとこ」
「それってまさか女の子?」
そう言って意味深に目を細める。この表情だけで言いたいことは誰もがわかるであろう。
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