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向こうから歩いて来るカップルの男のほうのシルエットに俺は見憶えがあった。
「川勝!」
名前を呼ばれて俺の記憶は正しいことを認知する。けれど良い気はしなかった。近づけば近づくほど隣に並ぶ二人はお似合いに見えてしまう。諏訪は俺よりも身長が高い上に太くはないが身体つきも良い。風呂上りの上半身裸は目を逸らすのを忘れてしまうくらいで、それに気付いた諏訪が誇らしげにポーズをとるのに呆れたことは何度もある。加えて爽やかという言葉が似合う端正な顔立ちだ。隣にいる女子大生は体格差から見れば対称的に小柄で細く、長い黒髪のせいかもともとか、顔も小さく可愛い印象で、二人のアンバランスさが際立って妙に画になっている。しかしそれは絶対に見たくなかった画だった。
「お疲れ!今着いたとこ?」
「ん」
諏訪の笑顔にぎこちなさを感じる。俺の表情を窺っているのもわった。
「えーっと、まず紹介から」
紹介。寒気が身体中を駆け巡る。彼女などと紹介されたら俺は一目散に走り去りたい。
「福留(ふくどめ)嘉代ちゃん。同じ学科の子で、さっき偶然チャリ置き場で会ったんだ」
偶然。諏訪はそう言った。少しだけ安堵する。改めて見ると福留嘉代は男に人気のありそうな可愛い容姿だ。
「福留嘉代です。あの、良かったら一緒にお昼いいですか?」
彼女の提案に驚く。けれど二人一緒に歩いて来るのを見たときからそれを全く予想していないわけではなかった。真っ直ぐこちらを見ている目。質問されていることにはっと気付く。断る理由は、特にない。
「どうぞ」
そう言うと安心したように笑うので胸の中がざらついた。きっと悪い子じゃないのだろう。それに、もし諏訪の彼女だったところで俺にとやかく言う権利はないのだ。 複雑でブルーな気持ちを抱えたまま俺たち三人は食堂に入った。
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