序章

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 夜空と同化しそうな黒い塊が空の彼方に消えていくのを見送り、二人は再び向き合う。 《ずっと憑いていたから、呪うのは容易だったよ》 「……そうですか」  先程の悪鬼の如き表情は鳴りを潜め、清々しい、仄暗い笑みを浮かべたソレは、光になり崩れ始めた。  光は大きくても蛍ほどで、ゆらゆらと天に昇り、ソレの輪郭がぼやけていく。  神秘的なその光景を、少女は目を細め見守っていた。 《―――ありがとう》  最期に心からの笑みを浮かべそう言い残し、ソレは……彼は、成仏した。  後に残ったのは、立ち尽くす少女と、先程まで彼がいた場所にぷかりと浮かぶ淡く光る宝石。  てを伸ばし宙に浮く小指の先程の宝石に触れ、その重みを掌に感じた少女はふっ、と肩から力を抜いた。 「宝魂(ソウルジェム)ゲット。……でも、こ、怖かった……っ」  悪鬼のような形相を思い出し、少女は情けない顔でへたり込んだ。  それでも、美しい手の中の宝石と、最期の彼の表情と言葉に、ゆるりと微笑みを浮かべ天を仰いだ。  少女は宝石を左手首に装着した艶のある不思議な色合いの、限り無く透明に近い水色のバンクルに近付ける。すると、真っ赤な宝石は嵌め込まれた透明な宝石――金剛石に吸い込まれ消えた。一瞬赤く煌めいた金剛石だったが、すぐに何もなかったように沈黙を保った。 「………帰ろ」  ポツリと呟き、少女は立ち上がり足早に公園を後にした。  ―――後日、行方知らずだった男性のバラバラ死体が山から発見され、犯人がスピード逮捕されたと報道された。犯人の男は、酷く憔悴した様子だったとか。
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