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昼間はとても明るい。
視覚的にも、体感的にも、とても。
曇って指す光が遮れることもあるけれど、それでもその雲間から覗く光は明るくて、暖かだ。
わたしは光のなかにいた。
わたしは昼の人間だから、光の中にいるしかなかった。
それが変わったのは、昨年の春。
入学式の翌週の新入生部活動勧誘イベント、通称新歓で、出会った男の子がわたしの世界を壊してくれた。
わたしに昼間の世界の外を見せてくれた。
月島孝平くん。
どこにでもいそうで、どこを探しても彼以外に見当たらない不思議な少年。
彼はわたしの知らない世界にいた。
世界なんてファンタジーなことをいっているけれど、実際は価値観だ。
わたしの価値観は他人と違う。
正反対でまるで違う。
わたしから見ると、他人の意見は暗くて仕方がない。
消極的とまでは言わないけれど、わたしのそれとはどうにも相容れない。
わたしはそれを夜と呼んでいる。
世界に朝昼夜とあるように、人にもそれぞれ、それに沿った時間があると思うから。
夜は昼と相性が悪い。
昼は夜と相性が悪い。
朝はどちらともつかないけれど、どちらでもある両極端。
合う合わないが存在する。
けれど、その枠に収まらない不可思議な異例も存在している。
それが夕方。
それが月島孝平くん。
わたしは飽き飽きしていたそんな価値観の中で、その三つの世界のどれにも属さず、中立を保つ彼に魅力を感じた。
それからは早かった。
彼を校門前で待ち伏せて、帰宅途中の孝平くんにアンケートと称してカーボン仕込みの入部届けにサインさせて、あきれている彼を先輩たちが卒業してわたし一人になった部室に連れ込み、説得した。
孝平くんは終始呆れていたけれど、でも、二つ返事にも等しい反応で入部してくれた。
それからはわたしの幸せが始まっていった。
異なる価値観を持ちながら、他の価値観を共有できる不思議な孝平くんとの夕方までの放課後はとても満たされていて、この幸せがずっと続くと信じていた。
信じて、疑わなかった。
けど、二月にはいって少したった頃、それは突然宣告された。
『部員三名以下の文科部は廃部とする』
胸に銀の杭を打たれたドラキュラの気分だった。
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