夕方

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特にやることなんてなかった。 部活動中の現在、僕こと、月島孝平はテーブルに頬杖をついて、僕のいる埃くさい文芸部室の窓から陸上部がランニングをしているグラウンドをぼうっと眺めていた。 文芸部の活動内容は、読書と執筆が主な活動内容で、文化祭みたいにイベントがある時期には文集を出したりするのだけれど、少なくとも、今のこの初春の肌寒い頃にそんな予定はない。 あと一週間もすれば入学式後の新歓イベントに向けて執筆を始めるけれど、ネタの考察もあり、今はまだ手はつけない。 それに、人がせっかくなにも考えることもなくぼうっとしてる横で、僕が聞いていないのにも関わらず、わーわー話しかけてくる人がいる。 前髪が一直線に揃えられ、シャギーの入っていない、長く揃えた黒い髪。 少しつり目がちだけど、そこには疑いようのない慈愛がこもっている。 背は僕が172センチと同年代の平均値で、その人はその僕よりちょっとだけ低いだけで、女子であるその人は同年代の平均値より遥かに高かった。 林夏名。 現在高校二年生、もうすぐ三年生。 僕のひとつ先輩で、僕をこの文芸部に強制的に入部させた張本人。 文芸部の部長ではあるけれど、本はあまり読まないし、文学少女ってなりでもない。 どっちかと言えば、どこかのお嬢様だ。 「もー、きいてるの?孝平くーん?」 「はいはい、聞いてます聞いてます」 あまりにも反応のない僕にしびれを切らした夏名先輩は僕の肩を揺すりながら問いかけ、面倒だと僕は生返事。 「じゃー、何て言ってたか言ってみなさい」 「新歓に出す文集でしょ?本当に出すんですか?また僕みたいに拉致してくるんじゃないですよね?」 僕の返事に視線をそらす夏名先輩。 そこは僕の目を見て否定するべきところじゃないだろうか。 嫌だぞ、また拉致された人が出て、僕に助けを求めてくるとか。
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