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「ら、拉致なんてしてないじゃない。ずだ袋被せて運んでないでしょう?」
「夏名先輩の中の拉致の構図がすさまじく危険なのはおいておきますけど。じゃあ、詐欺ですね。アンケートのしたにカーボン紙仕込んで入部届けにサインさせるとか、僕じゃなかったらどうなってたか知りませんよ」
そう、拉致とは便宜的に、かつ分かりやすく説明したもの。
カーボン紙を仕込んであるアンケートに署名させて、入部届けにサインさせ、有無を言わせずに部室まで連行する。
そして甘言とお菓子とお茶でもてなしてなしくずしで入部させるのだ。
ちなみにどうしてこんなに詳しいのかというと、僕が引っ掛かって、サインして、連行されて、甘言とお菓子とお茶でもてなされて、なしくずしで入部したから。
我ながらなんともバカらしい。
まあ、夏名先輩はかなりの美人で裏表なく優しい人だから、その人柄に僕が惚れ込んだというのは、まあある。
「今年は真面目に部員獲得しましょうね。大丈夫ですよ、僕の妹分が文芸部に入ってくれるそうですから、ひとまず廃部はないですから」
その妹分は本来ならバスケ部に入部する予定だったのだけれど、半年前の事故で膝を負傷、バスケは二度とできないほどのダメージを受け、そのショックで一時期は歩くことさえもやめてしまったけれど、今は普通に歩くには問題ないほどまで回復した。
妹分…片桐ゆきなが言うには、僕のお陰だといってるけれど、僕はなにもしていない。
本人が痛みとリハビリに耐えたからこそ、今歩けているのだと思うから、僕としては背中が痒いばかり。
「あら、それはよかった。でも、部員は多い方がいいじゃない?」
「部費的には。でも、興味がないのにこんなマイナーな部活、人は来ないと思いますけど?」
文芸部はどこの学校でもまあ、部員は少ないイメージだろう。
中学時代の友人が言うには、文芸部は漫研みたいなところもあるらしいけれど、その二択が最たるものだという。
「それもそうだけど。でもまあ、価値は人それぞれだもの。新入生200人のうち、もしかしたら一人二人はいるかもしれないじゃない?」
その多分が運動部に持ってかれるのは目に見えているけど。
でもまあ、男女の比率が4:6と女子の多いこの学校だから、もしかしたら、物静かな子は入ってくるかもしれない。
…夏名先輩のうるささを分け与える程度の子がいいだろうなあ。
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