43人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
藤咲先生が教室に入ってきて、HRが始まる。
夏休み前最後の。
この学校は2学期制なので、通知表は返ってこないが、期末試験の順位などの結果が返ってくる。
あたしは出席番号が1番だから、もちろん最初に。
「それじゃ、返すぞ」
先生のその一言でクラスがざわつく。うわーとか、こわいーとか、やだー、とか。
「愛坂取りに来い」
「はーい」
教室から出ていった先生を追い、廊下に出る。
他の教室の前でも同じ様に担任と生徒が1人づつ。
成績表を渡されて、言われた一言。
「まぁ、特になしだな」
「相変わらず雑ですね」
藤咲先生はあたしのその躊躇ない言葉に、はは、と笑った。
「成績優秀、生活態度にも問題なし。まぁ、掃除はよくサボってるが。そこは直せよー」
「はーい。以後気をつけます」
そんなこと、思ってないけどね。
受け取って素早く教室に入ろうとしたとき、藤咲先生が、あ、と声を出す。
「愛坂、お前進路どうするんだ。このあいだの進路調査の紙、白紙で出しただろ」
それは、あたしが聞かれたくなかったことで。
だから、早く教室に入ろうとしてたのに。
進路?そんなの決まってるわけがない。やりたいことなんて微塵もないし。趣味も特技も好きなこともない。
ただ、今楽しいことを一生懸命をやっていたいだけ。
でもそんなこといえない。そんなこといったら、家に電話かかってくるかもだし。そうしたら、あの母親のことだ。何をいいだすかわからない。
だから、あたしは嘘をつく。
「まだ決まってないんです。夏休み中には決めますよ」
そういって会話を終わらせた。
最初のコメントを投稿しよう!