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「それにしてもくるの早いですね」 「え、あぁ。まぁ、ねぇ。はは…」 掃除をサボりました。 口が裂けてもいえません。 笑ってごまかすしかない。 先生の白衣の左胸に付いてあるネームプレートには、藤代陸とかいてある。 ネームプレートの先生の写真にすらときめいてしまうあたしは、重症だ。 「紅茶、飲みますか?」 「はい。いただきます」 先生が紅茶をカップにすすごうとしたとき、保健室の扉が開く。 そこには、一つ上の学年の女子が2、3人。 「せんせぇ、紙で指切っちゃったんですけどぉ」 わざとらしく、語尾をのばして。 豊満な胸を強調させて。 上目づかいもして。 はい、先生狙い。 「あ、じゃあここに座っ「先生このぐらいならあたしがやりますよ」」 先生がやる前に、自分がやるといって、やらせない。 目の前の女子の顔がその一言で醜く歪んだ。 「で、でもぉ、先生にやってもらったほうがぁ…」 まだあきらめない女子にあたしはいう。 「大丈夫ですよ」 それもとびっきりの笑顔で。 「こういう傷で来る人には、慣れてるんで」 つまり、あなたみたいに先生狙いでこういう傷をわざと作ってくる人がたくさんいるんですよ。 この意味を含んださっきの言葉に、その女子はもう何もいってこなかった。
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