1:『学園守護者』選抜

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1:『学園守護者』選抜

学園長は、部屋の窓のそばに立ち、外を見下ろしていた。 不意に扉の開く音が聞こえ、足音が近づいてくる。 だが、学園長は振り向かず、侵入者に背を向けたまま沈黙していた。 その背に声がかけられる。 「・・・学園長。何故彼らなのですか」 淡々とした口調だったが、言葉の端々に非難するような響きが少しばかり含まれていた。 「・・・何か、不満でもあるのかね一ノ宮くん」 一ノ宮莉子――生徒会長は、眼鏡の奥の鋭い眼差しを、学園長の背に向けて答える。 「西猿寺若那は良いとして、残りの5人より優秀な生徒は他にもいるはずです」 学園長は振り向かない。 「今回の『学園守護者』の選抜はいかがなものかと、生徒会長として異議を申し立てます」 学園長が沈黙する。 生徒会長も黙って返答を待ち続ける。 「例えば」 不意に学園長が口を開いた。 「例えば、一ノ宮くん。君が何者からか追われているとしよう」 「は?」 「君が何者かに追われていて、その追っ手が学園にまでやってくる。追っ手の狙いは君だが、君は『学園守護者』ではない。一般の生徒である君は、他の大勢の生徒と逃げるわけだが、そのせいで君一人のために、大勢の生徒が傷つく恐れがある。君の追っ手を追い払う役目は『学園守護者』だから、君は何もできない。けれども、その追っ手は君の追っ手なのだよ」 「・・・何がおっしゃりたいのですか?」 学園長は依然として振り向かない。 学園長の言わんとしていることが、一ノ宮にはわからなかった。 「君が逃げまわることで、他の生徒に被害が及ぶのなら、君が逃げなければいい。君自身で何とかすればいいのだよ」 「・・・彼らを囮にして、学園の敵を追い払わせる、ということですか?」 「違うよ。彼らは、彼らの意思をもって、学園のために働くのだよ。彼らは、彼ら自身の敵と向き合うことで、成長していくことにもなる。これは、彼らのためであり、学園のためでもあるんだよ」 さぁ、これで話は終わりだ、とばかりに学園長はゆっくりと振り向いた。 生徒会長は悟った。学園長の意思が変わることはないのだと。 『学園守護者』は、あの6人で決定なのだと。 一ノ宮は、学園長に一礼すると踵を返して、退出していった。 だから、生徒会長には聞こえなかった。 「・・・『己の敵は、己自身の手で倒せ』ということだよ」 学園長の小さな呟きを――
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