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その穴は、どこまでも広がっている。
地平線すら黒く染め、ここから先を進む者に警告しているかのようだった。――なる程、“世界の端”とは言い得て妙だ。終わりが見えない穴の唯一の端であるこの場所が、世界の終わりだと無言で語られるようだ。
「すごいだろ。ここが一番全体を見晴らせるんだよ。右も左もずぅっと穴」
隣に立つ少年は嬉々とした顔で言う。
「以前はこの穴を見に沢山の人が訪れたもんだけどね、聖地って。解放からぅん十年経てばただの穴。めっきりお客さんは遠のいたよ――って、俺のじぃちゃんの口癖」
「聖地……? この大穴が?」
「ん、あれ? 旅人さん、女神教の人じゃないの?」
小首を傾げ少年は旅人に問う。
「生憎違うな。神は信じていない」
「へぇー……ん、まあそんな気はしてたよ。纏う雰囲気が信者どもとは違うもんね。――っと、いけねぇ。旅人さんさ、良かったらウチに寄ってってよ。この辺りじゃあ温かいスープ飲めるのはウチだけだぜ」
胸を反らし誇らしげに少年は言う。対する旅人は意地悪く口元を上げた。
「ふむ。そうだな、温かいものはしばらく食べてない。それに……またお前が襲われたらいけないからな」
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