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男の右手から繰り出されるのは黒き刃。それは私の体を引き裂こうと迫る。
「……っ!!」
私が目をつむったと同時に、急に誰かに抱き抱えられたまま土手を転がった。
痛みはなかった。不思議に思い顔をあげると、黒いジャケットを着た男の人の姿が視界に入る。
男の人は安心させるように私の頭を撫でると、蒼い宝石がついた黒鞘の短刀を私に預けた。
「この刀が君をあの怪物から守ってくれます。ここから動かないで」
そう言って、私が頷くのを確認してから男の人は土手を駆け上がった。
そして長いようで短い時間が過ぎ、悲鳴が響き渡った。それがどちらの悲鳴だったのかは私にはわからない。黒いジャケットの男の人はよろよろと立ち上がり、私の方へと近づいてくる。
「もう、大丈夫です」
優しい笑顔に、安心して私は嗚咽を漏らした。
「お姉ちゃん……が」
泣きじゃくる私の声に、男の人は言葉を失っていたようだった。それから、ゆっくりと優しく抱きしめられる。
私はそれで安心してしまい、すぅっと眠りに落ちた。
――あの時から、彼に貰った短刀は肌身はなさず持っている。
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