第零章

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 私は何故正規隊員も訓練生も一緒の食堂なのか、という根本的なところを嘆いていた。こういうことはこれが初めてではない。 「だいたい、櫻庭は訓練生に厳しすぎなんだよ。いつも眉間に皺寄せてさ。固まるよそのうち」  ユキ隊長には座学の教官として何度かお世話になったことがあるが、実はあまり話したことはない。穏和で優しい人だとはよく話に聞いていた。 「俺はお前のように愛想だけで生きていない。……メシアズ、今朝の模擬戦闘の件だが――」  今朝の模擬戦闘。ドールと呼ばれる悪鬼を模した訓練用の機械を使った訓練だ。今朝はドールの攻撃を食らってしまい櫻庭隊長に怒鳴られたばかりだった。 「基本は身についている。だが、常に悪鬼(ヤツら)は俺達の予想の斜め上をいく。……これからも精進しろ」 「はっ、はい! ありがとうございます! ユウイ・メシアズ、精進します!」  普段めったに聞けないその言葉に、私は慌てて敬礼をした。しかし、櫻庭隊長は「声がでかい! 時と場所を考えろ!」と怒鳴り散らす。  周りを見ると他の正規隊員や訓練生達がこちらを凝視していた。  稲葉副教官とユキ隊長はお腹を抱えて笑っている。稲葉副教官に至っては涙さえ浮かべており、そんなにおもしろいか、と怒鳴りたくなった。
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