4人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女は俺が首を縦に振るより前に正面の席に座る。
この女子生徒の名前は奏谷紗弥音(カナヤ サヤネ)。
音楽科の生徒で、俺の幼馴染になる。小学校時代、紗弥音が他校に引っ越してしまったために離れてしまったんだが、偶然にも同じ高校に通うことになった。
紗弥音はいま、合唱部の部長となり部員多い合唱部を見事にまとめあげている。
「ねぇ、放課後の黒陵祭の練習ってちゃんととってくれてるんだよね?」
黒陵祭、名前から分かる通りにこの高校の文化祭兼体育祭。
それが今月末に控えている。
文化祭では合唱部、軽音部、吹奏楽部によるコンサートが最大のイベントだ。
「あぁ……大丈夫、公会堂の手配はしておいた。今日、それから明後日。来週の予約はまだわからん」
「さっすがー!」
「……本当は部長の仕事なんだけどな、予約」
わざとらしく難しい顔をして頭をかく素振りをして「いやいや、私はどうも交渉ごとは苦手なんだよねー」などと寝言を抜かす。
「そんな大袈裟なもんじゃねぇだろ……」
「小さいこと気にしてるとハゲるよ、桐生副部長」
「余計なお世話だ!」
「あ、あの……」
昼食を持った巨漢が紗弥音の後ろでナヨナヨとした声を出している。
「あぁ、ごめん、邪魔しちゃったね」
俺の時とは違ってものすごい態度の丸い紗弥音がさっと席を譲る。
「あ、いえ、邪魔なんて……」
……やっぱりこの巨漢がなよなよおどおどとしているのを見ると吹き出しそうになる。
「それじゃあ、失礼するね。また放課後、孝雅」
「あぁ。またあとで」
紗弥音は最後ににこっと笑みを浮かべ食堂を立ち去った。
最初のコメントを投稿しよう!