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「おはよー。なぁ、古文の訳を写させてー」
「おはよっ。また?これで5回目じゃーん」
「コーラおごってやっから、な?」
「じゃ帰りにスタバのカプチーノ買って」
「うわー、高いやつ要求してきやがるー」
おはようを少しかわいらしく言う。5回目だってことを覚えてる。スタバのカプチーノって言ったのは店内に入って少しでもゆっくり一緒にいたいから。君は気づいているだろうか。タクへの特別がいっぱいある。
タクこと山本巧実は基本的にだらしなく、髪は茶色、なんか色々腰にも着けててとにかくチャラチャラしてる。
でもあたしはそんな彼に惹かれるのを止められないでいる。
ケータイをいじってる手を見たら触れたいって、思う。授業中の寝顔を見たら髪を撫でてあげたいし、骨張ってて固そうだけどほっぺたを優しくつついてあげたいと思う。いずれも、思う、だけだけど。あたしは異常なんだろうか。好きな人に触れたいって思うのはいけないことなんだろうか。
二人きりの教室でせっせとあたしの古文の訳を写すタク。あたしは黙ってタクを見つめる。
好き。やっぱり好き。こうしているうちにも想いが溢れて止まらない。
「……タク―…」
大きな瞳があたしを見つめる。それだけであたしは泣きそうだ。
「なに?」
「………す」
タクが珍しく真面目な顔をあたしに見せる。タクにはいつものあたしと違うように見えてるんだろう。あたしはいつもと同じなのに。タクのことがいつも好きなあたしは今も同じなのに。
「…何でもないよ」
タクは黙って、続きを写しはじめた。
やっぱり言えない。タクがいないところではいくらでも言えるのに。
『好きなんだ』
昨日も練習したけど、タクを前にすると、やっぱり言えない。多分、明日も明後日も言えない。
『好きなんだ
つぶやくだけなら大丈夫
だけどあなたに告うことできない』
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