第1章【危ない隣人】

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私は呆れ果て、大きな溜め息をついた。 こんなに強引で、おかしな人だとは思わなかったから。 「どうせ、私と兄の事を知ってるなんて言ったのも嘘なんでしょ? もう帰ります。お邪魔しました」 そう言って玄関を振り返った瞬間、黄色く鋭い音が部屋の空気を切り裂いた。 それは、私が彼に背中を向けたと同時に響いたのだ。 ガラスの割れた音。 きっと振り返った反動で私のバッグがジュースの入ったコップに引っかかり、そして床へ落としてしまったに違いない。 一体どれだけ勢いよく落としてしまったのか、そのジュースは見事に千堂くんに掛かっていて、コップは床にバラバラに砕けて落ちている。 「あ、ごめん、、なさい」 「いいよ。気にしないで」 千堂くんは言いながら、濡れてしまった制服を脱ぐ。 一方の私は、コップの破片だけでも拾おうと慌ててかき集めた事によって…… 「痛っ」 なんてドジなんだろう。 自分の指まで切ってしまった。 「大丈夫?指、見せて」 学ランとワイシャツを脱いだ彼は、しなやかな胸板を露にさせた姿のまま近づいてくる。 初めて見た彼の心配そうな表情と、その綺麗な身体に、思わず顔を背けた。 また、ドキドキしてしまっている。 顔が勝手に火照っていくものだから、恥ずかしくてギュッと目をつぶった。 すると、 「……あっ」 突然、私の手は彼に掴まれる。 何故かそのまま千堂くんの口元へ運ばれてしまった手の甲には、彼の熱い息が掛かった。 そして次の瞬間、私の指の切れて滲んだ血を、千堂くんは舐め始めたのだ。 痛みと、そこから疼き始めた羞恥心に戸惑い、千堂くんを引き離すことが出来ない。 彼は必死に、貪る様に舌を絡ませた。 どうしてだろう。 今までの千堂くんと、何かが違う。 愛惜しそうに指を舐める姿が、無意識に彼の言葉を甦えらせた。 “吸血鬼だから”    
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