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私は呆れ果て、大きな溜め息をついた。
こんなに強引で、おかしな人だとは思わなかったから。
「どうせ、私と兄の事を知ってるなんて言ったのも嘘なんでしょ?
もう帰ります。お邪魔しました」
そう言って玄関を振り返った瞬間、黄色く鋭い音が部屋の空気を切り裂いた。
それは、私が彼に背中を向けたと同時に響いたのだ。
ガラスの割れた音。
きっと振り返った反動で私のバッグがジュースの入ったコップに引っかかり、そして床へ落としてしまったに違いない。
一体どれだけ勢いよく落としてしまったのか、そのジュースは見事に千堂くんに掛かっていて、コップは床にバラバラに砕けて落ちている。
「あ、ごめん、、なさい」
「いいよ。気にしないで」
千堂くんは言いながら、濡れてしまった制服を脱ぐ。
一方の私は、コップの破片だけでも拾おうと慌ててかき集めた事によって……
「痛っ」
なんてドジなんだろう。
自分の指まで切ってしまった。
「大丈夫?指、見せて」
学ランとワイシャツを脱いだ彼は、しなやかな胸板を露にさせた姿のまま近づいてくる。
初めて見た彼の心配そうな表情と、その綺麗な身体に、思わず顔を背けた。
また、ドキドキしてしまっている。
顔が勝手に火照っていくものだから、恥ずかしくてギュッと目をつぶった。
すると、
「……あっ」
突然、私の手は彼に掴まれる。
何故かそのまま千堂くんの口元へ運ばれてしまった手の甲には、彼の熱い息が掛かった。
そして次の瞬間、私の指の切れて滲んだ血を、千堂くんは舐め始めたのだ。
痛みと、そこから疼き始めた羞恥心に戸惑い、千堂くんを引き離すことが出来ない。
彼は必死に、貪る様に舌を絡ませた。
どうしてだろう。
今までの千堂くんと、何かが違う。
愛惜しそうに指を舐める姿が、無意識に彼の言葉を甦えらせた。
“吸血鬼だから”
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