第1章【危ない隣人】

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そこまで彼が話したところで、やっと全てを把握することができた。 つまりこのアパートの壁は、とても薄いのだ。 隣人のプライベートが全て伝わってしまうほどに。 何も知らないはずの雪兄がすぐに私の居場所を察知したのも、さっきの千堂くんの声が、私達の暮らす204号室まで聞こえたからに違いない。 角部屋に住む私達の隣人は、唯一千堂くんだけ。 彼が引っ越してくるまで203号室は空家だったわけで、私達はそんな事にも全く気付かないでいた。 「千堂くんのさっきの台詞も、わざわざ雪兄にそれを教えるためだったのね」 騙された。 ちょっとでも期待した自分さえ腹立たしい。 「ガキのくせに生意気な事しやがって。 今後一切、妹に指一本触れるなっ!」 掴んでいた千堂くんの襟を乱暴に開放して、雪兄は私の手を取った。 「椿、帰るぞ」 「う、、うん」 見れば、雪兄は土足のままだった。 そんなに心配を掛けてしまったのか。 心配性な雪兄の腕に肩を寄せ、私は振り返らないまま千堂くんの部屋を後にした。
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