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そこまで彼が話したところで、やっと全てを把握することができた。
つまりこのアパートの壁は、とても薄いのだ。
隣人のプライベートが全て伝わってしまうほどに。
何も知らないはずの雪兄がすぐに私の居場所を察知したのも、さっきの千堂くんの声が、私達の暮らす204号室まで聞こえたからに違いない。
角部屋に住む私達の隣人は、唯一千堂くんだけ。
彼が引っ越してくるまで203号室は空家だったわけで、私達はそんな事にも全く気付かないでいた。
「千堂くんのさっきの台詞も、わざわざ雪兄にそれを教えるためだったのね」
騙された。
ちょっとでも期待した自分さえ腹立たしい。
「ガキのくせに生意気な事しやがって。
今後一切、妹に指一本触れるなっ!」
掴んでいた千堂くんの襟を乱暴に開放して、雪兄は私の手を取った。
「椿、帰るぞ」
「う、、うん」
見れば、雪兄は土足のままだった。
そんなに心配を掛けてしまったのか。
心配性な雪兄の腕に肩を寄せ、私は振り返らないまま千堂くんの部屋を後にした。
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