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そんな事が起きてからというもの、隣の部屋が気になって、私と雪兄の会話はすっかり減ってしまったけれど、キスだけは相変わらずだった。
そんな私も相変わらず、今日も窓から千堂くんを見ている。
毎日私にだけキスする雪兄。
毎日皆にキスする千堂くん。
千堂くんにあんな事をされたのに、キスをする理由も、彼女になってだなんて告白も、単なる嘘に過ぎないのに……
どうして、こんなにも気になるの?
日が経つうちに、私は小説が書けなくなっていった。
どんなに原稿に集中しようとしても、窓の外が気になってしまう。
自分が創りだした小説の世界に浸るよりも、現実の千堂くんに会う事を望んでいる。
「あ、、駄目ダメ。集中しなくちゃ」
私は窓を閉め、頭を抱えてデスクに顔を伏せる。
しばらくそうしていると、閉めたはずの窓から、何故か肌寒い風が吹き込むのを感じた。
不思議に思った私は、何気なく顔を上げてみた。
そして目に入った光景に、思わず声を失う。
あるはずの無い姿が、その窓枠に掴まって、こちらに微笑みかけていたから。
「今朝、椿の顔がチラっと見えたから、つい遊びにきちゃった」
それは、紛れもなく千堂くんだった。
なのに、窓から侵入した彼を追い出すよりも、何故か心が弾んでしまう私。
「遊びにきちゃった、じゃないでしょ!なんで窓から入ってくるの?!」
と、彼の手には気になる物があって、単純な私の意識は、すっかりそちらへ向けられてしまう。
「どうしたの、それ……包帯?」
「あぁ、これ?
保健室からパクってきた」
千堂くんは白い包帯を翻してみせてくる。
「怪我でもしたの?」
「そーゆうわけじゃ、ないんだけどね」
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