153人が本棚に入れています
本棚に追加
言いながら、千堂くんは手招きする。
とてもとても優しい微笑みだったものだから、私は考えもなしに彼のほうへ寄っていってしまったのだ。
「手当てに使うんじゃなくて、こう使うの」
千堂くんは、投げ縄の要領で包帯を投げてきた。
それは正しく、“投げ縄”だった……包帯の端には輪がつくってあったのだから。
いったいどこで見に付けた技なのか、投げた包帯は見事に私の頭をくぐり、彼が包帯の端をクイッと引くと、反応も出来ない素早さで輪は縮んで首へ巻き付いてきた。
「うっ……」
苦しい。
一体何を――
「椿に指一本触れるなって、兄さんに言われたから。
これなら指一本も触れてないもんね」
千堂くんは満足気な笑みを洩らし、私の頬を舐めた。
「苦しい?
その顔好きだなぁ……なんて、僕、変態かもね」
やっぱり千堂くんは狂ってるんだ。
なのに抵抗しない私も、十分危ない人間なのかもしれない。
「椿をこうやって縛り付けて、家に閉じ込めておきたいなぁ、、、なぁんてね」
千堂くんはそれだけ告げると、包帯を持っていた手を放し、窓の外へと消えていった。
どうしてだろう。
私の首は開放されたのに、いつまで経っても胸の息苦しさだけは消えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!