第1章【危ない隣人】

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    ◆ 「ただいまー」 「おかえり、雪兄」 夕方、雪兄は帰ってくるなり無言で私を抱きしめた。 「どうした、最近元気ないぞ。 具合悪いか?」 今日も雪兄は優しい。 いつも私の身体を気遣ってくれるし、考えてくれている。 そして私に温もりをくれるのは、他の誰でもなく雪兄なんだ。 雪兄、だけなんだ……。 充実しているような、寂しいような、不思議な気持ち。 私は小さな声で雪兄に訊ねた。 「ねぇ、雪兄。 人を愛するって、こんな気持ちなのかな?」 彼は何も応えないまま、こちらをじっと見詰めてくる。 私の身体はそのままソファーに押し倒され、重なった雪兄の体重に、それはミシリと音を鳴らした。 「椿、ドキドキする?」 「うん」 「俺にどうして欲しいか言ってごらん?」 そんな質問に対する答えが見付からなくて、私は黙りこくってしまった。
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