第3章【生徒ごっこ】

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2年4組の教室を離れた途端、チャイムの音が校内に響いた。 それは毎日、私達の住むアパートまで聞こえてくるけれど、やっぱり、校内で直接聞く音には懐かしさを覚える。 同時に私は、不思議な感覚に陥っていた。 千堂くんと同じ学校で、同じクラスで、そして、付き合っているような幻想。 病気がちで満足に通えなかった学生時代…… そんな穴だらけの残片的な記憶が、パズルをはめる様に埋まっていく、充実感。 「椿、何ニヤニヤしてるの?」 千堂くんと繋がった手の平が、心地良い熱を持っていた。 つい零れてしまいそうな笑顔を隠しながら、私達は教室から遠ざかり、空教室が並ぶ通路へ入った。 生徒も殆どいなくて静かな廊下だ。 時折、キュッっと鳴るゴム底の摩擦音が、天井から背中の向こうまで響き渡っていく。 「今度は、僕の部活を紹介するよ」 「部活!? 千堂くんって部活入ってたの?」
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