序章:隠れ厨二だったという話

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楓を見ると、俯いて今にも泣き出してしまいそうに見えた。いや、泣くことは無いと思うけれど、こんな表情を見せるのは滅多にない。 「楓?」 楓が顔を上げ、俺の目を見て訴える。切れ長の目の端には、薄く涙が浮かんでいた。 その涙は極レアものだけれど、こんな時に喜んではいられない。 「光貴くん……どうしたらいい? ここから出れないまま何をしたらいいんだ? もう買い物には行けないのか? 今日は帰れないのか? というかこの状況はなんなんだ? 誰かのドッキリなのか?」 楓の目からは、真珠のような涙が溢れていた。楓が泣くのを見るのなんていつぶりかな。 楓の言うとおりドッキリだったらいいのに、と心底思った。 明らかに焦り始めた楓。正直、楓と同じくらい、いやもしかしたらそれ以上に俺も焦っていた。 しかし、一応は俺も男だ。必死に焦りを隠し、平静を装う。 そして、楓を落ち着かせるために手を楓の頭に乗せる。 こんなことで落ち着くとは思えないけど、まあ気休めだ。人との繋がりを感じさせることで落ち着く効果があるとTVでも言っていた。 「大丈夫、俺と楓は一人じゃないんだ。まず落ち着こう。この状況を脱する為に」 俺の言葉を聞き、楓は目を拭って、頷いた。 手乗せ行為の落ち着かせ効果の結果かは分からないけど、少しだけ目から焦燥の色が取れた気がした。 楓は深呼吸をすると、目を閉じた。大きく息を吐き、クールな切れ長の目を開ける。 「すまない。少し不安になってしまった」 「ああ、それが当然だよ」 かく言う俺の声も、若干震えていた。怖いものは怖い。 こんな状況は聞いたことも見たこともない。誰でも得体の知れないものは怖いだろ?
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