序章:隠れ厨二だったという話

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ーーーーーーーーーーーーーー それから十分。 見えない壁に穴がないか探したり、友達と連絡を取る手段がないか探したり。 色々調べたが、その努力虚しく新しく分かったことも特になかった。力が抜けて地面にどさっと座る。 草が生い茂っているお陰か、それとも草木の柔らかな香りが鼻腔を擽るお陰か、こんな状況でも少しだけ気が安らぐ。 と思ったけれど、楓が不安そうにうろうろしてるのを見て、呆気なく現実に引き戻された。 そう、これは現実なんだ。夢じゃない。夢だったら良かったのに。 はっきり言ってこの状況はかなり不味い。 異常、と言えるこの状況は、まるっきり打ち破る方法がなく、絶望的だった。打つ手がない。あるのは焦燥だけだ。全く苛立たしい。 この空間は四角の壁に囲まれていて、風も吹かず、食糧も手に入れることが出来ず、ケータイも繋がらず、時間も進まない。 完全に外界と遮断された世界。 なんだこれ。 結界か?四次元か?そんな馬鹿みたいなことあるわけないことは分かってるけど。 他に頼るものがないから、何でも良い、ただ理由が欲しいだけ。 この状態が続くと、もしかするとデッドエンド、つまり死を迎えることもあるかもしれない。 ふざけるなよ。 冗談じゃない。 ふと、楓が倒れた。 体の力が抜けたように急に倒れたので、焦って駆け寄る。 近寄ると、スヤスヤと楓の寝息が聞こえた。 「おい、楓? おい、かえ……で…………」 楓の意識を確認しようとした瞬間、突然目の前が暗くなり、意識が途絶える。 ブラックアウトする意識の中で、俺は不思議と恐怖や不安を感じていなかった。 それが当然のことのように、自然に意識が落ちたのだ。 俺たちの意識がなくなる寸前、腕の黒い時計が、カチリと鳴った。 今思えば、それが全ての始まりだった。
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