序章:隠れ厨二だったという話

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フワフワと、身体がどこかへ飛んでいってしまいそうな不思議な気分だった。今なら何でもできてしまいそうな、根拠のない自信が沸き起こり、俺はその自信に身を預けた。 「なぁ、この世にはいらない人間が多すぎるとは思わないか?少年よ」 低く響く声。ゆっくりとその声の持ち主の姿が浮かび上がる。 筋骨隆々の逞しい肉体は浅黒いーーというよりは、毒々しい色をしていて、鬼のような顔には額にもう一つ目があった。山羊のような捻じ曲がった角に、コウモリのような漆黒の翼、鋭い牙に、鋭利な爪。 いわゆる、ファンタジーで言うところの魔王とでも呼ぶべき風貌のその男は、俺の顔を見て口の端を吊り上げた。 「くだらん世界だが、人間が滅びてしまえばスッキリするだろうよ。…………死ね」 崩壊した論理だ、などと心中では考えていたはずなのだが、俺はなぜか「そんなこと、俺がさせない!」と口走り、その男に向かって駆け出していた。 俺は手に羽のように軽い剣を一振り持っているようだった。というのは、確かにその男に向かって剣を振りかぶり走り寄っていく男は俺なのだが、俯瞰的にその光景を見ているような、不可思議な感覚があったのだ。 「そ、それは聖剣エクスカリバーか!?封印が解けたというのか!」 男が狼狽える。俺は聖剣エクスカリバーを男に向かって真っ直ぐに振り下ろした。 「南無阿弥陀仏!」 なぜか念仏を唱えながら、俺は男の身体を切り裂いた。あっさりと男は両断され、「くっ……私を倒したところで、もう遅い…………いずれ世界は…………」と言葉を残し、絶命した。 わけのわからぬ達成感に満たされた俺は、エクスカリバーを頭上に掲げ、叫んだ。 俺の雄叫びが、頭の中に何度も木霊したのだった。
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