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「ん……?」
目を開けると、突き刺すような光が目を射抜き、思わず目を細める。
さっきまで、とても不思議な夢を見ていたような……。
もう既に覚えていないけど……。夢ってすぐに忘れるらしいね。覚える方法は何だっけな。そうそう、すぐに口に出すことだ。
目に映る見慣れない天井には、眩しい、光る水晶のようなものが掛けられていて、どこかファンタジーの世界の中にいるような気がする。恐らく照明だろう。
科学って凄いよな、水晶の中に電球でも入れてるんでしょ?
見える景色と体の感触から、自身が横になっているのだと認識すると、この状況に陥った理由を記憶の海から探る。五個中一個の単語を憶える黄金の記憶能力だ。
楓と買い物に行くつもりで、近道をして、迷って、空き地に閉じ込められて、それから……。
「楓っ!」
胸まで掛けられていた薄手の布団を跳ね飛ばし起き上がる。
近くに楓の姿は見えない。
俺が寝ていた寝心地の良いベッド(めちゃくちゃ良い匂いがする)から下りると、状況を把握するために辺りを見回した。
基本的に落ち着いた茶色で統一された部屋。
クローゼット、机、本棚。
机やベッドの上に置いてあるぬいぐるみや可愛い小物が、女性の匂いを感じさせた。
実際の匂いも、どことなく甘いので、ここは女性の部屋なのだろう。
そんな中、ところどころに不可解な形状の水晶が転がっていた。
いやいや水晶って部屋に置きます?
色もまちまちで、まぁ見方によっては綺麗で可愛いのかもしれないけれど、部屋のくまちゃんやウサギ、可愛くデフォルメされたピンク色のトラなどを見ていると、どうにもこの部屋に似つかわしくない気がした。
こんな風に冷静に状況分析してるけど、内心めちゃくちゃ焦ってる。例えるならうっかりパンツを見てしまったのにわざと見たと誤解された時くらいに。
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