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「ちょっと来て……」
透き通るような、芯の通った声。良い声と言うのはこんな声のことを言うんだろう、と思うほどに、綺麗な声色だった。
思わず胸が激しく拍動する。まるで、胸の部分を太鼓のように叩かれているような感覚だ。
さっき見てしまったものは余りに衝撃が強すぎて、俺の脳内変換能力では対応し切れず、なにを見てしまったのかまだよく分かっていない。
それは、男の永遠のロマンのような、朽ちることのない夢のような、そんなものだった気がする。
などと自分にいいように解釈しているけれど、今俺は事故とはいえ、乙女の着替えを覗いたわけで、赤髪の少女からしてみれば、自分の裸体を知らない男に見られたということなのだ。
いやいや普段からこんなことしてるんじゃないよ。事故だよ事故。不幸な事故。
もしかしたら、ビンタくらいされるかもしれない。
いや、ビンタで済んだら良い方だろう。グーパンチくらいなら有り得る。
恐る恐る振り返る。ゆっくりと首だけ回し、赤髪の女の子の顔を見た。
少し吊り気味の大きな目は、「見たでしょ? 責任、とってよね?」と訴えかけてくるようだ。
……まぁ、冗談だが。
どちらかというと、深紅の瞳は、怒りに燃えているように見える。
風呂上がりだからだろう。頬が赤く、軽く上目遣いでこちらを見ていて、なんというか、妙に色っぽかった。
ぷるんとした、艶のある唇が小さく動く。
「……『ファイア』」
「は?」
瞬間、目の前に閃光が走った。
ボッと音を立てて、拳大の炎が顔の前に発生する。もちろん、顔の前にライターやマッチなんてなくて、文字通り何もない空間に、突然炎が現れたのだ。
炎の発生というよりかは爆発に近いものだったかもしれないが、何もない空間に発現したという点ではさして変わらない。
何かしらの危険物質、例えばガソリンか何かの気体化、それに一工夫加えたのか?
そんなことはあり得ない。いや、あり得ないというかそこまでする理由が見当たらない。
「うわっ」
思わず飛び退くと、廊下の壁に、激しく頭を打ち付ける。鈍い痛みが後頭部に走った。
鬼は魔法的な何かが使えました。びっくりです。
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