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「この変態! やっぱり助けなきゃ良かった」
女の子が、指で俺の顔を指しながら叫ぶ。
え?変態?お巡りさん呼ばなきゃ。
現実逃避なんて誰でもするよね。
「あーありえないありえない!助けてくれた女の裸覗くなんてなに考えてんの? 普通感謝するのが礼儀ってもんでしょ?どういう神経してんの? あんたの脳内ピンク色なんじゃない?」
なんともまぁ、口の悪い少女だった。
あなたの肌がピンク色です。今は服を着ていて少ししか見えないんだけれども。
……いや、そんなことより、だ。
重要なところはそこではない。
「なんだ今の?急に炎が出たぞ?」
真っ先に浮かんだ疑問を投げかける。これが一番の疑問点。火が何もない場所に突然?
どんなトリックだ?
まさか……いやいや、落ち着こうか。
少女は眉間に皺を寄せた。
「はぁ?あんた変なところでも打った?」
今起きたことをすんなりと信じることが出来ない。出来るわけがない。だって今のはまるで……。
「炎だよ炎!急に目の前に炎が!」
俺の目をじっと見つめ、ゆっくりとした、冷ややかな口調で喋る。教室で女子がいないと思いエロ話で騒ぐ男子を注意するような、背筋も凍るほどの冷たい声。
「あんた、初級魔法くらいで何言ってんの?」
…………ああ、人間は、例え望んでいたことでも、簡単には常識を変えられないんだ。また一つ賢くなれた。
俺にはこの女の子の言葉が、信じられない、受け入れることができない。それがどんなに望んでいたことであっても。
「魔法? 魔法って言ったか今?」
本気でこいつ頭イッたんじゃない? という風に更に眉間に皺を寄せる少女。
「ちょっと本当に記憶喪失か何か? 魔法なんて珍しいもんでもないでしょ」
ふぅ、結論。
ここがどこか分からないけれど、ここでは『魔法』の存在は常識らしい。俺の常識と随分食い違いますね。
そしてそれが、俺の初めての魔法との出会いだった。
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