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「変ね。記憶喪失になった人の話なら聞いたことあるけど、魔法みたいな一般常識なら覚えてるらしいわよ?」
あれ……確かにそういえば、俺たちの世界でも、記憶喪失の奴も普通に勉強とかはできるんだった。何でなんだろう。不思議だ。
そのことは完全に見落としていた。
「いやぁそれが、ははっ。なんでだろーなー。あ、もしかしたら魔法の説明とかお前がしてくれたら思い出せるかもなー、なんて、ははっ」
動揺したのがバレただろうか?
待ってくれよ、異世界人とかバレないで欲しいな、面倒ごとに巻き込まれるのは御免蒙る。
「ん、記憶喪失ってそんなもん?」
なんてチョロい少女なんだろう。もし俺が詐欺師だったら三秒で騙せるぞ。
信じてもらって言うのもなんだけど。
「ああ、頼む! この通りだ」
胸の前で手を合わせ、敬意を表す。こっちの文化でもこの敬意の表し方合ってるのかな?
「……てか、あんた誰?」
「へ?」
「名前よ名前! ……分かる?」
「あ、ああ。光貴。及川光貴だ」
ふーん、と少女は相槌を打つと、ひょいっと豆腐を口に放り込む。その白い豆腐のように君の肌もぷるぷるだね、とは言わないことにする。
「ま、どうでもいいけど」
「なら聞くなよ……」
聞こえないようぼそりと呟く。
「なんか言ったー?」
おお聞こえてた。地獄耳だな。
「いや別に? お前は何て言うんだ?」
すると、女の子はどこか誇らしげに、赤い髪をサラッと耳に掛けると、
「ミオンよ」
と言った。
知ってるでしょ? とでも言うようにチラッとこちらを見てくる。
「へー、ミオンっていうのか、宜しくな」
「へ? それだけ?」
口を開け、ポカンとしてこちらを見ている。
「なんで?」
赤髪の少女、ミオンはふぅ、と嘆息し、
「もういいわ。……そういえばあんた魔法も覚えてないんだったわね。……じゃあ、魔法について説明すればいいのね?」
俺は、ミオン作った料理を口に運びながら、コクンと頷いた。
やっぱり料理は和風に限るね。味噌汁は日本が誇る秘密兵器。
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