序章:隠れ厨二だったという話

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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ……と。 俺は深くため息をついた。 相変わらず、空虚で支離滅裂で夢見がちな妄想だな、俺。 まぁ妄想なんて自分が楽しむための、ただの手段だし、誰に迷惑をかけてるわけでもない。 俺は考える。 魔法が使えればどんなことができるだろう、と。 お金なんて幾らでも手に入れられるだろう。簡単だ。 手品なんて素で出来るし、医療魔法が使えれば医者にもなれる。 ああ、魔法って素晴らしい。 かっこいい魔法が使えれば女の子にもモテるし、人生薔薇色、勝ち組だ。 まさにやりたい放題である。 もしかしたらヒーローや英雄のように扱われるかもしれない。 魔法には人類の叶えられない夢や浪漫が詰まっている。科学で証明できないことも、魔法と言えばそれで終わり。 だけど、それも所詮は想像であり単なる妄想だ。 朝になれば異能の力が宿ったりはしないし、転校生が特別な力を持ってたりしないし、自分の右目が急に覚醒することもない。 科学の世界に置いて、手から火を出したり、怪我を一瞬で治したり、風を起こしたり、一瞬で移動したり、つまり「魔法」と呼ばれるモノの存在は否定されてきた。 誰も発見できていないからだ。 まだ見つかっていないものなんて、現代の世界ではーーーこの「科学」の世界では、全く意味をなさない。 幽霊も超能力も魔法もネッシーも妖怪もイエティも何もかも。 そんなものは嘘っぱちであるとされている。そんなのいるわけがない。なんせ、確証がないのだから。 そう、『この世界』では。 俺こと及川光貴は、ぼんやりと薄暗くなった天井を見つめ、小さく息を吐く。 俺は寝る前の時間、布団の中でいつも魔法の世界を想像していた。 なんてファンタジックで、冒険に溢れた世界なんだろう。 現実世界とは大違いだ。 無理に他人と比べられ、才能のあるものとないものでハッキリと区別され、弱者は社会の歯車として働くしかない。 くそくらえ。 いつしか、これが俺の日課になっていた。想像の中の自分なら、魔法が使える。化け物とだって、闘える。 それがいくらか学校や勉強のストレスを減らしてくれている気がした。 俺は今日も魔法の世界の住人となって、戦いながら眠りについたのだった。
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