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校舎に入る時、中年の男性数人とすれちがった。恐らく先生だろう。
とすると、ここは職員校舎なのかもしれない。
前を歩くミオンの艶のある髪が歩く時に揺れるのをなんとなく見ていると、ミオンが急に振り返った。
髪がふわっとミオンの顔にかかる。甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「心の準備はできた?」
急に言われて、少し考えてみるが、別に焦っているわけでもない。至って普通。シュミレーションは何年も前からやってるさ。
不安がないわけではないが、なんとなく、大丈夫な気がしていた。
こくりと一つ頷くと、ミオンが歯を見せて笑った。
人を馬鹿にするような笑みではなくて、心からの、柔らかみのある笑顔。例えるなら世界を明るく照らす、空の王者、太陽のような。
こいつのことを知っていなければ、これだけで惚れてしまいそうな、反則的な笑顔だった。
思わず見とれてしまった。
「ま、大丈夫よ。私はここからは行けないから、今からやることの確認をするわよ」
どうやら本人は自覚ゼロらしい。及川法なら無自覚の罪で懲役五年くらいかな。そんな法なんてないけれど。
「まず、昨日会った先生の所に行って、その後は多分闘技場ね。それでテストを受けて、合格して私と帰る。ん、こんなもんね」
なんともザックリとした説明だった。
ミオンにとって、俺の合格は決定事項のようだ。簡単に言ってくれる。
嬉しいような、そうでないような、変な感じだ。
「分かったよ」
どことなく緊張してきた気がする。さっきまで落ち着いてたのに。どうしてくれる!
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせようとするけど、余計鼓動が速まる。この緊迫感、たまらねぇとは俺の妹の迷言其の五だ。他にも数々の迷言を残しているのだが……それはまた次の機会に話そう。
硬い表情をしていた俺を見たのか、ミオンが先程とは異なる悪魔のような笑顔を見せる。
「落ちたらぶっころ……じゃなかった」
「おい?」
なんか怖いこと言おうしなかったか?
「あは、かんじゃったわ」
「噛むっていうレベルじゃねえぞ……」と呟く。
ミオンは、口を吊り上げ、ニヤッと笑う。
「皮剥ぐわよ?」
「言い直してより恐ろしい表現にしやがった!」
ほとんど脅迫だった。相変わらず口が悪い。
まぁ、これがミオンなりの応援の仕方かもしれない。
いつのまにか緊張も取れていた。一応、ミオンのおかげかもしれない。 礼は言っとこう、心の中で。
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