序章:隠れ厨二だったという話

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すっかり日が落ちてしまい、辺りは真っ暗。街灯の明かりと月明かりだけが夜道を照らしていた。 もう高二だ。流石に怖くはなかった。小学生の頃は夜道を一人で歩くだけでビクビクしたものだけど。 俺と楓の家は学校から離れていて、その上家が隣同士だったので一緒に帰ることが多いのだ。 ラブラブ? 残念ながら俺と楓はそんなものじゃない。 楓とは小さい頃からいつも一緒で、いわゆる幼馴染みという奴だったーーーー普通の幼馴染とは若干違うかもしれないけれど。 楓の幼い頃は俺より力が強く、どちらかというとお兄ちゃん、という方が相応しかったかもしれない。 昔はいきなり蛇や蛙を俺の前にちらつかせたりして、よく泣かせられたものだ。心底怖かった。蛇を頬に当てられた時なんて……今思い出してもぞっとする。 もちろん叩いたり蹴ったりはしなかったし、泣いたら慰めてはくれた。 兄貴分、というのが小学校低学年までの楓に対しての認識だった。 そんな楓も小学校高学年になる頃には、自分が女子だということを自覚し、おしとやかとまではいかないが、おとなしくなり、もともと綺麗だった顔立ちも相俟って、急激にモテだした。 そのことで少し寂しさを感じる自分もいたのを憶えてる。 だけどそれでも楓に浮ついた噂は出なかったし、何人もの男が振られていくので、次第に誰も楓に恋愛感情を抱かなくなった。 そしてこの前買い物に誘われたのは、勿論デートのお誘いなどではなく、楓が友達と旅行に行くのに着て行く服を選ぶのを手伝って欲しい、ということだった。 当然俺は荷物持ちだ。恋愛対象には見られてないんじゃないだろうか、多分。 俺がどんなに楓を好きになっても、楓が俺に振り向くという気がしなかったのだ。
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