序章:隠れ厨二だったという話

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「たしか、今日の放課後、だったな。準備が出来たら楓んちに行くよ」 「ああ分かった。ただし窓からは……」 「分かってる、行かねえよ」 中学三年の冬。 当時はゲームにハマっていて、楓と毎日夜遅くまでやっていた。俺んちと楓は隣合っているので夜遅くまでやっていても平気だったのだ。 俺と楓の部屋は二階なので、いちいち玄関から入るのもめんどうくさくなり、窓から楓の部屋に侵入した。 今思えば、めんどくさくてもしっかり玄関から入るべきだったと反省している。後悔もしている。ほんと、たしかにあれは俺が悪かった。 ただ信じて欲しいのは、わざとじゃない。それだけだ。 楓からしたら急に窓を開けられたわけで。 かなり驚いていた。 ーーーーそう、楓は着替えの最中だった。 小さい頃一緒に入った風呂で見た体とは明らかに違う、曲線が美しい女性の体。 「おっとこれは事故だししょうがないよねしかし楓綺麗になったな嬉しいよ」なんて言う間もなく。 きょとんとした顔でこちらを見る楓の顔は、次第に鬼のように変わっていった。 勿論ビンタどころではすまなくて、しばらく楓に対しては敬語を使うほどには、こっぴどくという単語を用いるほどに大変な仕打ちにあった。 あの時のことを思い出すだけで右頬が痛くなる。おお怖い怖い。 カワイイというよりかは、綺麗という印象の楓。 切れ長の目、やや高めの身長、程よいスタイルの楓と一緒に買い物と言うのは緊張すべきところなのだけれど、常に一緒にいたため、または昔の楓を知っているため、緊張は一切感じなかった。 まぁ幼馴染なんてこんなもんだ。綺麗だ、とは思うけど。恋愛感情を通り越してもう、家族の枠組みに入っている感じ、と言えば分かるだろうか? 歳の近い兄妹がいる気分だ。 だからと言って女性として見ていないとか、そういうわけではないのだけれど。複雑すぎて言葉にしにくい。 キーンコーンカーンコーン。 業務的な音が鳴り、それと同時にやつれた顔の、見るからに具合の悪そうな教師が教卓側の扉から入ってくる。 席を離れていた生徒も自分の席に戻る。 今日もまた、憂鬱な時間が始まろうとしていた。
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