仕事を選べる時代じゃない

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「いやーさすが”薄斗(うすと)”君! 潔いね!」  そう言ってボールペンと朱肉を取り出した日陰は、俺へと手渡した。 「さあ。サインして拇印を……」 「あ、はい」  促されるままサインし、契約書を手渡す。 直後、日陰は最高に黒い笑みを浮かべた。 「いやー……誰もこんな得体の知れない仕事、やりたがらなくてねぇ……」 「えっ!?」 「助かったよ。それじゃ、明日から宜しく」 「ちょ……」 「はい。これ概要書ね。遅刻したりしないでよ? じゃあ……」  捲し立てる様に喋った日陰は、速やかに席を立つ。 テーブル脇に置かれたオーダー用紙を手に取り、レジへ向かった。  茫然としていた俺は、日陰の素早さに出遅れ―― 「――あ! ちょっと待ってくださ……」  結果、”黒子”という良く分からない仕事をする羽目に。 何事も熟考は必要だと、この時身に染みて覚えたのだった。
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