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ファミリーレストランから1キロ程の自宅へ戻った俺は、古びた玄関の傍に自転車を止め、立てつけの悪いドアを無理やり開ける。
――直せよ……
そうは思うが、我が家に父親はおらず――
妹と母親、俺の三人家族で暮らしている。
その為、日曜大工には縁が無く、俺自身も極度に不器用なので、色々と不具合の有る自宅を修理出来ない。
工務店や大工にでも頼めばいいだろうが、御世辞にも裕福と言えない我が家庭。
悲しい格差社会がここでも浮き彫りになっている。
「ただいまー」
玄関に腰を下ろした俺は、履きなれたスニーカーの靴紐を解く。
「あら、お帰り」
背中越しに聞こえる母さんの声。
それに振り返り、再度”ただいま”と返した。
「仕事決まった?」
心配そうに俺を見つめ、そう問い掛ける母さん。
笑顔を作り、仕事が決まった旨を伝えると、つられて母さんも笑顔になる。
「おめでとう! 今日は御赤飯ね!」
「いや……そこまでしなくても……」
少々ずれた部分の有る母さんは、首を傾げて見せた。
齢40を超えておきながら、何処となく少女の面影が垣間見える。
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