最高の色、そして終末へ

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 メルヘン看板の先。洞窟のようになった所をくぐった先で。 「架! あれが袋井の滝だよ」 母さんの声はちゃんと耳に入れていたつもりだったが、まず、三つの段を勢いよく流れ落ちる瀑布に目が釘付けになった。更に、それを四方八方から囲むのは…… 虹だ。紅葉と言う名の。 「紅葉、綺麗だねぇ」 「いや見事なもんだねぇ」 俺達と同じく観光に来たらしい老夫婦が、側でそう語りながらカメラを構えている。 俺の感想も、二人と全く相違なし。いや実際、想像以上だった。たかが紅葉、昔通った小学校の校庭にだって椛<モミジ>や銀杏の木が何本も植えてあるし、別に珍しいものじゃない。けれど、この一面の紅葉はどうか。虹色の絵の具で山を染めたみたい? ……いや、虹そのものだ。人の手が及んでない、自然の芸術なんだから。 虹の世界に誘う。だからレインボーロード、か。そのネーミングも、これ見たら何だか納得だ……。  と、暫く一人浸ってしまっていたところへ。 「写真、撮らないの?」 「えっ? あ、あー、そうだな……」 母さんが急に声を掛けてきたので、俺は変などもりを伴った返事をしてしまった。そして、わたわたしながらポケットからデジカメを取り出す。 「良かったら撮りましょうか?」 側にいた老夫婦の男性の方がそう申し出てくれたので、母さんはすっかり上機嫌。 「あ、すみません。じゃあお願いしちゃおうかな。架、カメラ!」 「あっ、ちょっ、母さん……」と俺が言った時にはもう、カメラは俺の手から母さんの手、そして男性の手へと渡っていた。  パシャ。 「ありがとうございます」 男性に頭を下げてお礼を言う母さんは、本当に楽しそうだ。一緒に写真に写るなんて、何年ぶりだろう。何だかこっ恥ずかしいな。……まあ、たまにはいいか。
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