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「架~、ちょっと待ってよ。アラフィフの体にこの山道はきついんだから」
歩き始めて十五分。早くもひいこら言い始めてるこの人が、俺の母――上松教子<アゲマツ ノリコ>である。
二十六歳の時に俺を産んでるから、今年でちょうど五十。確かに、もう若くはねぇな……。でも女優とかだとこの人五十代に見えねーって人結構いるから、まぁ、個人差あるんだろうな。
「確か、もうちょっと歩けば喫茶店か何かあるんだろ?」
「その『もうちょっと』が長いのよ~。よっこらしょっと」
俺の確認に応じる母さんの声はすっかり上ずっている。大きな段差を越える度に「よいしょ」とか「よっこらしょ」とか。
進むのだってどうしても年齢や性別のアドバンテージで俺の方が早くなってしまうから、俺はさっきから何度も立ち止まって後ろを振り返っている。いつになったら喫茶店に着くのやら……。
待てよ。いっそ、俺だけ先に喫茶店行って休憩するのもアリかな? うん、それがいいだろう。よし、決めた。
……なんて、邪ってほどでもないだろうけど、そんな事を考えたのが仇になったのかな。
「母さん、俺――」
意気揚々、歩みを早めようとした時。
ズルリ。
俺は段差を派手に踏み外したんだ。
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