どこがレインボーロードだよ

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「痛っててて!」 「ちょっと架! 大丈夫? 焦ってせかせか登るからよ」 どうにか両手をついて体を支えたお陰で、顔面から土に突っ込むのは免れた。が、ついた両手の平はぬかるんだ土のせいで真っ黒。膝から下も同様だ。このデニム、買ったばっかりだったのに! 「うわー、最悪。新品のデニムが……」 「そんな事より! 怪我はしてない?!」 デニムを汚してショックを受けている俺に対して、すぐに怪我の有無を尋ねる母さん。俺もガキだった頃はしょっちゅう怪我して、母さんはその度血相変えて、こんな風に眉間にシワ寄せてたな。全く、まさか大人にもなってまた、こんな顔をさせちまうなんて……何だかバツが悪いな。  とりあえず大丈夫だろうと思って、手の平についた土を落とそうと両手を擦り合わせてみたんだが……。 「――っ!」 ピリッという痛みがしたから、あらためて手指を見てみると、所々皮が剥けて、中には血が滲んでいるところも。あーあ、ちくしょう。手洗いたい。でもここは山道の途中。水道なんてありゃしない。 「ほらやっぱり。ちょっと待ってなさい」  俺の表情を見て怪我したと分かったらしく、母さんはリュックを下ろして中身をガサゴソと漁り始めた。  やがて取り出したのは、消毒液だ。いつの間に準備してたんだろう。用意がいいな。俺なんか怪我するなんて想定は無いに等しいから、せいぜい絆創膏ぐらいしか持って来てないのに。 「よくそんなの持って来てたね」 「ふふ、母さんをなめて貰っちゃ困るよ。とにかく喫茶店まで行ったらまず手洗いだね」  ドヤ顔の母さんから消毒液を受け取った俺はすぐ、傷の出来た所にそれを垂らした。しみなかったと言えば嘘になるけど、体がだいぶ火照っていたから、ひんやりした液がちょっと心地良かったな、なんて。
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