1.入れ替わって入れ替わったこと

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ここで今回の実験の被験者を紹介しよう。    まずは、草食系男子の方。  名前は草加翔真。  彼は県立の高校に通う2年生で、テニス部に所属。顔立ちはそこそこ良くて、性格も温厚。学校の成績は中の上といったところ。  クラスでは友好関係も悪くなく、クラスメートの女子とも気兼ねなく話せるし、義理とはいえバレンタインでチョコをもらったことも何度かあった。  しかし、彼はそれ以上のことをまったく望んでいなかった。  趣味であるテニスに打ち込み、学生の本分である勉強に取り組み、あとは同性の友達とくだらない話をして盛り上がる。  ただそれだけで充分だった。恋愛という概念は彼には全く不必要なものであったのだ。  つまり彼は今の生活に、満足していた。    お次は喪女だ。名前は喪坂琴音。  彼女は私立の一貫校の中学3年生で、部活はやってない。帰宅部だ。そばかすが目立つ顔はお世辞にもきれいとは言い難く、本人もそれを気にしていた。  クラスに友人は数えるほどしかいなく、異性と話した経験は全くと言っていいほどない。数年前まで彼女の所属する学校が女子高で、今年から共学になったせいで男子の数が比較的少ないのが原因と言えなくもない。  しかし、彼女は中学に入って3年間、異性との接触と言えば担任の男教師と父親くらいしか思い当たる節がなかった。  そして、彼女は恐ろしいほど恋愛に執着していた。  モテたい。同年代の男と一言でいい、言葉を交わしてみたい。友達でもいいから男と仲良くしたい、などなど。  だが皮肉なことに、彼女の環境はそれを許さなかった。  毎日学校に行ってはただそこで泥のように時間を過ごし、休み時間はだれとも話さずに教室の隅で意味もなく文庫本を広げ、家に帰宅すればベッドの上でファッション誌を読んだりテレビを見たりして、やがてそれに飽きて眠る。そんなことの繰り返し。  彼女はそれが嫌だった。  自分の今の環境から抜け出したくて仕方なかった。  つまり彼女は、今の生活に不満だった。    さあ、説明はこんなところだ。  いよいよ実験に移ろう。  今日の始まり、午前0時からしばらくの間、彼と彼女の人格を入れ替える。  そして彼らがどういう行動に走り、どういう心境を抱き、どのような変化が起きるのか。  物は試しというだろう。  では――――実験開始。
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