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ピーポーピーポー
「ぴーぽー」
ピーポーピーポー
「ぴーぽー」
今年もまた残暑が厳しくて、七尾玉虫(たまむし)はTシャツの背中を汗で濡らしたまま、〈蒲の穂公園〉の芝生の上で空を見ている。
空の四隅からにょきにょきと伸びた高層ビルが掴もうとしているのは、入道雲のシッポ。
チョロチョロと鼻の頭を風にくすぐられながら、玉虫はアルバイトが始まるまでの空いた時間を、何時ものように此処に仰向けになる事で潰している。
〈蒲の穂公園〉のある三条尻手(さんじょうしって)地区は妙な所で、周りの高層ビル全てに裏口のような扱いをされ、一等地である筈なのに、人が少ない。
――裏口? なんだか初めから、全部のビルがこの場所に背中を向けるように計画された気がしないでもない。
ツクツクボーシ ツクツクボーシ
人はまばらだけれども、蝉の数は多い。
――――「なぁ御堂、いいから俺と付き合っちゃいなよ。洋服でも何でも、好きな物買ってやるからさぁ」
蝉の鳴き声に混じって、人の声がする。
ツクツクボーシ
(みどう? みどうかりん‥)
玉虫は目を閉じたまま。
ツクツクボーシ ツクツクボーシ
「イヤ! 何度言ったら解ってもらえるんですか」
ツクツクボーシ
(うるさいな‥‥)
暑くて、おまけに蝉がうるさくて、玉虫はむくっと体を起こした。
ソバカス顔に半月の形をした目。
無愛想である。
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