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三条尻手の空に垂れ込めた雲から、一粒、二粒と雨が落ちて来た。
「下柳先輩だっけ?」
玉虫は、蛙のシャボン玉を吸い込んだであろう手鏡の裏を、コンコンと拳で叩いた。
ペロッ
鏡に吐き出されて、チャラ男は砂場に両手両膝をつき、その後直ぐにドサッと顔まで砂につけた。
「人の嫌がる事をするもんじゃないよ」
ぼそりと呟いた玉虫の耳に、待ちわび式部サンはウンウンと頷きながら指を入れ、腕が入りきると肩、そして体全部を入れてしまう。
「ひっく」
玉虫は架輪の方へ振り向いたが、彼女は急に何かを思い出したらしい。
「いけない、バイトの時間に遅れちゃう!」
御堂架輪は、制服のスカートを砂だらけにしたまま走り出した。
「玉虫君ありがとう~」
走り出したら振り向きもしない。
「ひっく」
玉虫は二回目のしゃっくりをした。
蝉の声も蛙の鳴き声も、もう聞こえない。
雨粒が公園の木の葉を叩く音は聞こえる。
ヒック
そろそろ夕方の5時。
玉虫もアルバイトの時間である。
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