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私は少しずつ回復して、そしてそのまま、出て行くキッカケを掴めずに、彼との生活が続いた。
何もない、質素な暮らし。
けれど、この家はいつも安らかな温もりに満たされていた。
彼はぶっきらぼうだけれど、それは優しさをどうやって表現したらいいのか、わからないようだった。
穏やかに、過ぎていく日常の中、私は気付いていた。
…彼に、恋焦がれていた。
叶わないのは、わかっていたけれど…
私には、彼に想いを告げるための言葉がなかったから。
ああ神様…どうか私に一言だけ、彼に伝える言葉をください…
月夜には、枕元で彼の寝顔を眺めた。
朝には彼を見送り、窓辺で彼の帰りを待った。
休日には、あの大木の足元、木漏れ日の中で一緒に過ごした。
幸せ…だけど、切なかった。
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